ワールドセクション/神話
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*神話 [#t50136ec] **虚空の時代 [#lae04f90] まだ、世界といえるものが無かった時、ただ、虚空に一己の巨大な人がいた。後にミナカと名付けられるこの巨人は、その無限とも思える巨体を横たえ、無限とも思える時の中をただ一人で過ごしていたが、やがて、孤独に飽きて、両の眼より一粒ずつ、涙を流した。その清明なるものが陽となり、重濁なものが陰となった。やがて、世界に陽であるナギと陰であるナミが充ち満ちると、巨人はゆっくりと溶け出し、砂となり、風に吹かれて、散ってしまった。後には陽と陰に分かれた水だけが残った。 **水の時代 [#o5ee7ae5] 陽と陰の水は、互いに交歓し合い、巡るめく入れ替わっては、回り続けた。そこには一切の悲しみも苦しみもない、ただ流れ行きては天に昇る水のような夢の時だった。そんな水の中、陽のナギと陰のナミが交わるたび、少しずつ、塵のような、砂のようなものがこぼれては水底に溜まっていった。 ある時、その水底に一つの小さな芽が顔を出した。やがて、芽はすくすくと育ち、根を張り、双葉を広げ、茎を伸ばした時、柔らかなかんばせが顕わになった。それは生物、それは女であった。 陽の者も陰の者もみな、彼女に興味を持ち、あれやこれやと歓心を惹こうとした。そして、その時、欲が生まれ、それが自個となった。自は他と競り、個は全を欲した。そこに争いは始まったのである。 **木の時代 [#h821ce9a] 争いは争いを呼び、静寂だった水の世界には喧噪に満ち、陽の者、陰の者も水底に積もった塵を練って、泥の衣となし、それを纏って《龍》となり、戦い始めた。衣が破れれば、何度でも新しいものを練って、着替えた。そして、命が果てるまで、倒れ伏すまで、何度も傷つけあった。 この間、女には討ち取られた敵が捧げ続けられた。やがて、最後の1人までもが倒れた時、意志のあるものは誰1人無く、水の世界の全てが女に捧げ尽くされた。女はその根をいよいよ深く張り、枝を巡らして、高く高く伸びていった。食い尽くした全てをその身に変えて。こうして、7本の大枝をもったムスビという名の世界樹が生まれたのである。 しかし、全てを食い尽くしたムスビは、それで全てを為し尽くしたかのように眠り始めてしまった。その目が閉じられようとした時、どこからともなく、一羽の鴉がやってきた。右足にコンパス、左足に定規を掴んでいたが、これを打ち鳴らし、耳障りな鳴き声を上げ、世界の眠りを妨げようとしたのである。ムスビはその声を止めようと、ガー、ガーと鳴くその者を手で払い除けた。巨大な掌に打たれ、鴉は脆くも墜ちていった。 再び、ムスビの目蓋は閉じられようとした。だが、鴉はめげずに、今度は美しい唄を歌い出した。ムスビは薄れゆく意識の中、その唄に耳を傾けた。そして、段々と唄に引き込まれていくに連れ、世界の意識は目覚めていった。ムスビはついに微笑を浮かべながら、ゆっくりと目蓋を持ち上げた。 鴉は世界樹ムスビに結ばれている果実の中から特に大きなものを12個選び、コンパスを突き刺して、それをぐるりと一回転させると、まるで粘土を練るかのように、お盆状に丸くした。さらに定規を使って、お盆の上を平たくした。今日有る、11の《実の大地》はこうして作り出されたのである。 さらに鴉はムスビの実の内、今度は小さいものを取ると、嘴で穿って、中から種を取り出し、それをそれぞれ一つずつ、《実の大地》に蒔かせた。種の蒔かれたところには一つずつに一本、鴉は己の羽を引き抜き、挿しておいた。その羽に夜露が溜まり、種を芽吹かせた。世界樹ムスビの分け身たるカンナギはこうして生まれた。 **火の時代 [#y026b103] それから、鴉とムスビは和合して、1人の子を為した。しかし、ヒルコと名付けられたその子は手も足も口も鼻も目も持たぬ不具であった。そのことを忌み、鴉はムスビの葉を取って、舟を造り、ヒルコをそれに乗せて、流してしまった。ムスビはその子を哀れみ、こっそりと、持てる全ての金をその舟に一緒に乗せてやった。 二柱はもう一度、子を為したがそれも不具の子だった。怒り狂った鴉は、アハシマと名付けられたその子を石臼で磨り潰し、その肉片を風に流して、ばらまいた。そして、疲れた鴉が眠り込み、一晩が過ぎた。鴉が目を覚ました時、多種多様な四つ足のものたちが地にのさばり、大きな吠え声を上げていた。 これを喜んだ鴉は、ムスビの果実から青いものと赤いものを選び、四つ足の者たちの前に投げ与えた。最初、それが何であるのかさえ、理解していなかった四つ足のものたちであったが、勇気あるものが赤い方の果実に口を付けると、他のものもそれに続いた。この時、あるものは種を吐き出し、あるものはそのまま飲み込んだ。その数がちょうど半々であったことから、飲み込んだ方を男、飲み込まなかった方を女と呼んで区別した。 青い果実はいつの間にか片づけられ、次に鴉は四つ足の者たちを集め出した。だが、ほんの一部の者たちしか集まらなかった。他のものは勝手気ままに方々を彷徨いているだけだった。鴉は集まった者たちに名を与えた。根を張るものミフネ、角あるものウヅミ、爪持つものトモエ、駆けるものヒヅメ、大きなものウナリ、羽ばたくものタケナワ、貪るものムクロである。さらに名を記す字を、それを書くために墨を造ることを教えた。こうして、世の生き物は智のあるものと智のないものに分かたれたのである。 そして、鴉はミフネたちを洞窟に集めると、その他の生き物をその前に並ばせた。そして、順番に桑(の実)、稲(米)、豆、麦、麻(の実)を手一杯に渡し、それらを食すようにと命じた。みなは喜んで食したが、ムクロはそれだけでは空腹が治まらなかった。ムクロはこっそりと洞窟に忍び込んだ。中程まで進んだ時、ミフネの1人、ハイヌウェレを見付けた。隅に潜んで様子をうかがっていると、彼女は頭を掻いて桑、目を掻いて米、耳を穿って豆、鼻を穿って麦、陰部を穿って麻の実を取り出していた。これを見たムクロは、彼女を喰えば、腹の中で五穀を生み続け、永遠に満腹するだろうと考えた。そして、思慮浅く襲いかかり、ハイヌウェレの肉を引きちぎり、腹の中に納めた。この時、零れた血が洞窟から流れ、地に染み込み、そこから五穀の花を咲かせるようになるのはまた、後の話である。ともあれ、しばらくは満悦していたのだが、やがてまた空腹を感じた。訝しんだ彼は鴉にこのことを話すと、鴉は烈火のごとく怒りだした。皆と分け合うべき食べ物を独占しようとした罪。大切なものを失わせた罪。そして、鴉の目を盗んで悪事を働いた罪。3つの罪状を宣言すると、鴉はその大きな嘴でムクロを摘み上げ、根の下へと放り投げた。 世界はこの時まで、ぼんやりとした薄暗がりであった。鴉は、闇に忍ぶような行為をするものがいるのは、この闇のせいだと言った。そして、鴉はムスビの口に己のくちばしをあてると、ムスビの中の陽のナギを少し吸い出した。そして、「光あれ」と叫び、火の玉を吐き出した。1つ、2つと吐き出した。これが虚空に輝く星たちの始まりである。 だが、1000個目を吐き出そうとしたところで息が詰まり、慌てて翼をばたつかせたため、無数の羽が飛び散った。あげくに、吐き出そうとしていた火の玉を飲み込んでしまい、胃の腑の中から燃え上がった。さらに火は彼が足場にしていたムスビの果実に移り、巨大な火の玉となってしまった。火の玉は御するものもなく世界中を駆けめぐった。 **土の時代 [#a86c762b] 火の玉が世界中を駆けると、それに当たってしまったムスビの葉や枝や小さい実が燃えて、灰となり、それが《実の大地》に積もって、土となった。なおも火の玉は駆け巡り、生き物たちは今度は灼熱と乾きに悩まされるようになった。申し子の長であるウヅミはみなに良い知恵がないか呼びかけた。すると1人の男が立ち上がった。名を尋ねると未だ無いという。名を貰う前に鴉がいなくなってしまったのだという。ウヅミはならば、褒美として名を授ける故、何とかしてみせよと命じた。 次の日から、名無しは火の玉めがけて、跳ね続けた。しかし、火の玉は虚空の彼方に簡単に逃げおおせて、食いつけるものではなかった。期待していた者たちは落胆し、訝しんでいたものはあざ笑った。特にタケナワの1人、メロウは一族を率いて、名無しの真上を飛び回り、「我ほどにも天に届かぬくせに愚かなり」と唾を吐きかけた。それは名無しの頭に当たって、彼を濡らした。名無しはメロウを一瞥すると、やにわに飛びかかり、その翼を食い千切って、雲の中に叩き込んだ。メロウの一族は彼を追って、同じように雲に飛び込んだ。こうして、虚空に浮かぶ水の玉・雲の中で暮らす魚という生き物が生まれた。魚からはやがて、鱗持つものタケルが生まれるのだが、それはまた後の話である。 さて、名無しの牙は段々と太陽をかすめるようになった。火の玉に出来た傷からは白金が流れ出し、そこからスバルが生まれた。そして、ついに名無しは太陽にかぶりつくと、一息に飲み込んでしまった。ウヅミたちは大いに彼を讃え、呑み込むものホロビという名を贈った。 皆に傅かれ、得意の絶頂であったホロビだが、その影で彼を狙うものがいた。日より生まれしものスバルたちである。彼女たちは一計を案じた。ホロビに嫁入りしたいものがいると言って、雲辺に誘い出すと、彼を水の中に突き落とし、溺れさせた。そして、水を飲んで膨らんだ腹を押して、中のものを吐き出させようとしたのだ。一押しすると、水が噴き出して滝となり、二押しすると魚を吹き出し、三押しすると大きな岩塊が飛び出した。息を吹き返したホロビはすぐに岩塊を再び飲み込もうとしたが、スバルたちはこれに乗って逃げ出した。 追いかけっこは何日も続いたが、ついに追いつかれそうになったのだが、スバルたちはこの間にある準備をしていた。自らが乗る岩の中から水銀を取り出すと、それで巨大な鏡を作り出し、星々の輝く光を集めた。それは凄まじい閃光となって、ホロビを襲い、彼の目を盲いさせた。そして、右も左も判らず、地に転げるばかりのホロビを尻目にまんまと逃げおおせたのだ。 この巨大な鏡は火の玉と違い、熱を持たずに光のみを照らすので、地に這う者たちは重宝した。ウヅミはこれを日輪と名付けた。また、スバルたちが乗って逃げた岩塊は陽のナギを失い、宙に浮かぶだけのものとなった。ウヅミはこれを月輪と名付けた。 スバルたちはウヅミに、「月はもう、地を焼かないから、ホロビに狙わないようにしてくれ」と頼んだ。ウヅミはこの提案を受け入れたのだが、ホロビは聞き入れず、月を追い回した。当然、月は呑み込まれまいとして逃げ出し、つられて、日輪も動き出した。こうして、追いかけっこが繰り返されると、日輪と月輪が交互に空に現れるようになり、こうして、昼夜というものが生まれたのである。
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*神話 [#t50136ec] **虚空の時代 [#lae04f90] まだ、世界といえるものが無かった時、ただ、虚空に一己の巨大な人がいた。後にミナカと名付けられるこの巨人は、その無限とも思える巨体を横たえ、無限とも思える時の中をただ一人で過ごしていたが、やがて、孤独に飽きて、両の眼より一粒ずつ、涙を流した。その清明なるものが陽となり、重濁なものが陰となった。やがて、世界に陽であるナギと陰であるナミが充ち満ちると、巨人はゆっくりと溶け出し、砂となり、風に吹かれて、散ってしまった。後には陽と陰に分かれた水だけが残った。 **水の時代 [#o5ee7ae5] 陽と陰の水は、互いに交歓し合い、巡るめく入れ替わっては、回り続けた。そこには一切の悲しみも苦しみもない、ただ流れ行きては天に昇る水のような夢の時だった。そんな水の中、陽のナギと陰のナミが交わるたび、少しずつ、塵のような、砂のようなものがこぼれては水底に溜まっていった。 ある時、その水底に一つの小さな芽が顔を出した。やがて、芽はすくすくと育ち、根を張り、双葉を広げ、茎を伸ばした時、柔らかなかんばせが顕わになった。それは生物、それは女であった。 陽の者も陰の者もみな、彼女に興味を持ち、あれやこれやと歓心を惹こうとした。そして、その時、欲が生まれ、それが自個となった。自は他と競り、個は全を欲した。そこに争いは始まったのである。 **木の時代 [#h821ce9a] 争いは争いを呼び、静寂だった水の世界には喧噪に満ち、陽の者、陰の者も水底に積もった塵を練って、泥の衣となし、それを纏って《龍》となり、戦い始めた。衣が破れれば、何度でも新しいものを練って、着替えた。そして、命が果てるまで、倒れ伏すまで、何度も傷つけあった。 この間、女には討ち取られた敵が捧げ続けられた。やがて、最後の1人までもが倒れた時、意志のあるものは誰1人無く、水の世界の全てが女に捧げ尽くされた。女はその根をいよいよ深く張り、枝を巡らして、高く高く伸びていった。食い尽くした全てをその身に変えて。こうして、7本の大枝をもったムスビという名の世界樹が生まれたのである。 しかし、全てを食い尽くしたムスビは、それで全てを為し尽くしたかのように眠り始めてしまった。その目が閉じられようとした時、どこからともなく、一羽の鴉がやってきた。右足にコンパス、左足に定規を掴んでいたが、これを打ち鳴らし、耳障りな鳴き声を上げ、世界の眠りを妨げようとしたのである。ムスビはその声を止めようと、ガー、ガーと鳴くその者を手で払い除けた。巨大な掌に打たれ、鴉は脆くも墜ちていった。 再び、ムスビの目蓋は閉じられようとした。だが、鴉はめげずに、今度は美しい唄を歌い出した。ムスビは薄れゆく意識の中、その唄に耳を傾けた。そして、段々と唄に引き込まれていくに連れ、世界の意識は目覚めていった。ムスビはついに微笑を浮かべながら、ゆっくりと目蓋を持ち上げた。 鴉は世界樹ムスビに結ばれている果実の中から特に大きなものを12個選び、コンパスを突き刺して、それをぐるりと一回転させると、まるで粘土を練るかのように、お盆状に丸くした。さらに定規を使って、お盆の上を平たくした。今日有る、11の《実の大地》はこうして作り出されたのである。 さらに鴉はムスビの実の内、今度は小さいものを取ると、嘴で穿って、中から種を取り出し、それをそれぞれ一つずつ、《実の大地》に蒔かせた。種の蒔かれたところには一つずつに一本、鴉は己の羽を引き抜き、挿しておいた。その羽に夜露が溜まり、種を芽吹かせた。世界樹ムスビの分け身たるカンナギはこうして生まれた。 **火の時代 [#y026b103] それから、鴉とムスビは和合して、1人の子を為した。しかし、ヒルコと名付けられたその子は手も足も口も鼻も目も持たぬ不具であった。そのことを忌み、鴉はムスビの葉を取って、舟を造り、ヒルコをそれに乗せて、流してしまった。ムスビはその子を哀れみ、こっそりと、持てる全ての金をその舟に一緒に乗せてやった。 二柱はもう一度、子を為したがそれも不具の子だった。怒り狂った鴉は、アハシマと名付けられたその子を石臼で磨り潰し、その肉片を風に流して、ばらまいた。そして、疲れた鴉が眠り込み、一晩が過ぎた。鴉が目を覚ました時、多種多様な四つ足のものたちが地にのさばり、大きな吠え声を上げていた。 これを喜んだ鴉は、ムスビの果実から青いものと赤いものを選び、四つ足の者たちの前に投げ与えた。最初、それが何であるのかさえ、理解していなかった四つ足のものたちであったが、勇気あるものが赤い方の果実に口を付けると、他のものもそれに続いた。この時、あるものは種を吐き出し、あるものはそのまま飲み込んだ。その数がちょうど半々であったことから、飲み込んだ方を男、飲み込まなかった方を女と呼んで区別した。 青い果実はいつの間にか片づけられ、次に鴉は四つ足の者たちを集め出した。だが、ほんの一部の者たちしか集まらなかった。他のものは勝手気ままに方々を彷徨いているだけだった。鴉は集まった者たちに名を与えた。根を張るものミフネ、角あるものウヅミ、爪持つものトモエ、駆けるものヒヅメ、大きなものウナリ、羽ばたくものタケナワ、貪るものムクロである。さらに名を記す字を、それを書くために墨を造ることを教えた。こうして、世の生き物は智のあるものと智のないものに分かたれたのである。 そして、鴉はミフネたちを洞窟に集めると、その他の生き物をその前に並ばせた。そして、順番に桑(の実)、稲(米)、豆、麦、麻(の実)を手一杯に渡し、それらを食すようにと命じた。みなは喜んで食したが、ムクロはそれだけでは空腹が治まらなかった。ムクロはこっそりと洞窟に忍び込んだ。中程まで進んだ時、ミフネの1人、ハイヌウェレを見付けた。隅に潜んで様子をうかがっていると、彼女は頭を掻いて桑、目を掻いて米、耳を穿って豆、鼻を穿って麦、陰部を穿って麻の実を取り出していた。これを見たムクロは、彼女を喰えば、腹の中で五穀を生み続け、永遠に満腹するだろうと考えた。そして、思慮浅く襲いかかり、ハイヌウェレの肉を引きちぎり、腹の中に納めた。この時、零れた血が洞窟から流れ、地に染み込み、そこから五穀の花を咲かせるようになるのはまた、後の話である。ともあれ、しばらくは満悦していたのだが、やがてまた空腹を感じた。訝しんだ彼は鴉にこのことを話すと、鴉は烈火のごとく怒りだした。皆と分け合うべき食べ物を独占しようとした罪。大切なものを失わせた罪。そして、鴉の目を盗んで悪事を働いた罪。3つの罪状を宣言すると、鴉はその大きな嘴でムクロを摘み上げ、根の下へと放り投げた。 世界はこの時まで、ぼんやりとした薄暗がりであった。鴉は、闇に忍ぶような行為をするものがいるのは、この闇のせいだと言った。そして、鴉はムスビの口に己のくちばしをあてると、ムスビの中の陽のナギを少し吸い出した。そして、「光あれ」と叫び、火の玉を吐き出した。1つ、2つと吐き出した。これが虚空に輝く星たちの始まりである。 だが、1000個目を吐き出そうとしたところで息が詰まり、慌てて翼をばたつかせたため、無数の羽が飛び散った。あげくに、吐き出そうとしていた火の玉を飲み込んでしまい、胃の腑の中から燃え上がった。さらに火は彼が足場にしていたムスビの果実に移り、巨大な火の玉となってしまった。火の玉は御するものもなく世界中を駆けめぐった。 **土の時代 [#a86c762b] 火の玉が世界中を駆けると、それに当たってしまったムスビの葉や枝や小さい実が燃えて、灰となり、それが《実の大地》に積もって、土となった。なおも火の玉は駆け巡り、生き物たちは今度は灼熱と乾きに悩まされるようになった。申し子の長であるウヅミはみなに良い知恵がないか呼びかけた。すると1人の男が立ち上がった。名を尋ねると未だ無いという。名を貰う前に鴉がいなくなってしまったのだという。ウヅミはならば、褒美として名を授ける故、何とかしてみせよと命じた。 次の日から、名無しは火の玉めがけて、跳ね続けた。しかし、火の玉は虚空の彼方に簡単に逃げおおせて、食いつけるものではなかった。期待していた者たちは落胆し、訝しんでいたものはあざ笑った。特にタケナワの1人、メロウは一族を率いて、名無しの真上を飛び回り、「我ほどにも天に届かぬくせに愚かなり」と唾を吐きかけた。それは名無しの頭に当たって、彼を濡らした。名無しはメロウを一瞥すると、やにわに飛びかかり、その翼を食い千切って、雲の中に叩き込んだ。メロウの一族は彼を追って、同じように雲に飛び込んだ。こうして、虚空に浮かぶ水の玉・雲の中で暮らす魚という生き物が生まれた。魚からはやがて、鱗持つものタケルが生まれるのだが、それはまた後の話である。 さて、名無しの牙は段々と太陽をかすめるようになった。火の玉に出来た傷からは白金が流れ出し、そこからスバルが生まれた。そして、ついに名無しは太陽にかぶりつくと、一息に飲み込んでしまった。ウヅミたちは大いに彼を讃え、呑み込むものホロビという名を贈った。 皆に傅かれ、得意の絶頂であったホロビだが、その影で彼を狙うものがいた。日より生まれしものスバルたちである。彼女たちは一計を案じた。ホロビに嫁入りしたいものがいると言って、雲辺に誘い出すと、彼を水の中に突き落とし、溺れさせた。そして、水を飲んで膨らんだ腹を押して、中のものを吐き出させようとしたのだ。一押しすると、水が噴き出して滝となり、二押しすると魚を吹き出し、三押しすると大きな岩塊が飛び出した。息を吹き返したホロビはすぐに岩塊を再び飲み込もうとしたが、スバルたちはこれに乗って逃げ出した。 追いかけっこは何日も続いたが、ついに追いつかれそうになったのだが、スバルたちはこの間にある準備をしていた。自らが乗る岩の中から水銀を取り出すと、それで巨大な鏡を作り出し、星々の輝く光を集めた。それは凄まじい閃光となって、ホロビを襲い、彼の目を盲いさせた。そして、右も左も判らず、地に転げるばかりのホロビを尻目にまんまと逃げおおせたのだ。 この巨大な鏡は火の玉と違い、熱を持たずに光のみを照らすので、地に這う者たちは重宝した。ウヅミはこれを日輪と名付けた。また、スバルたちが乗って逃げた岩塊は陽のナギを失い、宙に浮かぶだけのものとなった。ウヅミはこれを月輪と名付けた。 スバルたちはウヅミに、「月はもう、地を焼かないから、ホロビに狙わないようにしてくれ」と頼んだ。ウヅミはこの提案を受け入れたのだが、ホロビは聞き入れず、月を追い回した。当然、月は呑み込まれまいとして逃げ出し、つられて、日輪も動き出した。こうして、追いかけっこが繰り返されると、日輪と月輪が交互に空に現れるようになり、こうして、昼夜というものが生まれたのである。
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